太郎日記

T43って知ってる?

2004年02月19日

T43って知ってる?


ターミネーターもいよいよ 43 本目ってことでは無い。

テイク 43と言うこと。 ワンカットを 43回 撮影しましたよ と言う意味。


数々の現場で大量のNGと引き換えに素晴らしい芝居を披露してきた僕チャン

バトルの深作組でも、光の雨の高橋組でも、ゲロッパの井筒組でも

NG王の名前をほしいままにしてきた。

仏の顔も3度まで?いやいや僕ちゃんには、通用しませんよ。
果たして43回もNGを出して許してくれる人々などこの世の中に、存在するのだろうか?

仏陀のごとく、まるでキリストの様に僕ちゃんを温か~く 

見守って下さる心優しき方々がいたのである。
懐深き方々と その作品は? 

    『ミナミの帝王』である。


そう、あの日もいつもと なんら変わらぬロケ日和だった。

いつもの様に軽妙に適度なアドリブを挟みながらも順調に撮影は進んでいた。

あるシーンに入り 3度程テストを重ね、本番前のラストテストに突入した時

一瞬、台詞が不安定になった。

本番に入るや、密かな不安と予感どうり確実にNG。

「失礼しました!!」 とっておき笑顔につとめて明るく振舞い もう1度トライ。

でも NG。 いやいや、決して難しいセリフでは無い。ほんの2~3行の事。


「次こそ本番です!!よろしくお願い致します。」等と

意味不明な言葉で取り繕い、またもやさりげなく明るさを振りまく。

こうして気がつけばすでにテイク20。

「太郎めずらしいなあー テストではちゃんと言えてたのに」 大好きな竹内力さん。

思わず僕チンの涙を誘う、優しさ溢れるお言葉で助け舟。

「3分下さい」 萩庭監督にお願いし 気分転換に外へ新鮮なエアー補給。

行きかうトラックの排気ガス。まるで僕の惨めな心の様にグレー色。

汚染された空気を胸一杯吸い込み セリフを何度も何度も繰り返す。

スラスラ ペラペラ、 な、 なんとお上手。

滑らか~~に次から次へ言えてるではないか。


お待たせ・・・・  「本当にお待たせしました!!完全復活です」

笑顔を振りまき現場へカムバック。 何度かやってみる。

うーーん、完璧とは言えぬが今迄で1番ましな出来。

ここらで手を打っておかねば、今日の撮り分を消化できぬ。


だが、こだわり屋で、慎重、なお且つ、欲張りな萩庭監督にあっては

「ここまで来たんだから、納得するまでやろう」 のクールな一言。

ああ~~すでにこの時点でテイク30。

ご希望に答えトライするも、またまた怪しげに脆く崩れだす。

先ほどの スラスラ、ペラペラは夢かはたまた幻か? 

見果てぬ夢をおい続け、はやテイク40。
いたたまれず、もう1度外で胸一杯 (小児喘息の記憶が蘇るも)毒ガス吸入休憩へ突入。

この、だらしなく驚異的に記憶力のなまった脳細胞の奴めを毒で満たし、

強烈な刺激で活を入れてやらなければ。

だが、数値の高すぎる排ガス吸引でネガテイブシンキングが津波のように押し寄せる。


(このまま、ビルの屋上から、飛び込んだろか!!)


ロケ地がネパールや南アルプスならこんな気分にはならぬはず。

此処は目を閉じ まずは、お得意の瞑想イメージトレーニングで現実逃避。

薄紫の茜雲が掛かった遠く緑濃い山並みに羊の群れが見える。

あそこで、手を振るのは、まぎれもなくペーター。

クララが、儚げに車椅子から立ち上がり「頑張って~」 そこで、現実に。


今、この一瞬を頑張らなければならないのは、他ならぬ自分自身。

鉛のように身も心も重い足取りでつかの間の現実逃避行を終え 

3タビ現場へ逆戻り。

テイク 43 にして鬼監督 心の底からOKを下さり

「テイク38は、○○さんで経験したけど テイク43は君が初めて。太郎ちゃんが最高」

ああ~~そんな時あなたならどう返す? 

とっさに僕チン 「あなたの1番になりたい・・・」 と、 お姉口調で締めくくったとさ。


「ミナミの帝王」 僕は大好きな現場だった。

萩庭監督は自由に僕を泳がせてくれる太っ腹な人。 

しかし、駄目出しはトコトン、愛情に満ち溢れた方。

竹内力さんは人の痛みの分る芸能界では数少ない、正直でまっすぐな男気溢れる男が惚れる男。

撮影監督の三好さんは、たえず、静かな笑みを湛えたダンデイー。

いつもお洒落で辛い現場でも安らぎを与え暖かく幸せ気分を高めてくれる人。

そして、ミナミに関わるスタッフは、映画が好きで好きで、この作品が好きで、

むちゃなアドリブ かます僕チンを 優しく愛で包み込んでくれる面白い人たち。


この、大好きな現場から僕は、卒業する事になりました。

はっきり言って辞めたくはなかったけど

43回ものNGを出せてしまうのは自分の気の緩み。

僕にとっては、最高のはまり役だった と 思うけど

もう1度、甘ったれた自分を厳しい状況に置く意味でも、

そしてチャンスを待つ若い人に次を譲る意味でも卒業を決めました。

僕の後を引き継いで万田銀次郎の子分になる奴は、才能溢れる僕も大好きな役者さんです。

お楽しみに。

次回は、ブルーリボン賞のリポートをお送りする予定(予定は、未定)。


         全ての僕のファンの皆様に 愛をこめて
 
                                      山本 太郎